こんにちは。BOXING CLUBトレーナーの高須賀です。
ボクシングでは、「スタミナがある」というと体力を思い浮かべる方が多いと思います。
しかし、実は試合で重要になるのは体のスタミナだけではありません。
トップボクサーがよく口にするのが「脳のスタミナ」という言葉です。
2026年5月、中谷潤人選手との激闘を終えた井上尚弥選手は、試合後のインタビューで
「体力というか、脳のスタミナがすごく削られた」
と語っていました。
世界最高峰の試合では、ただパンチを打ち合っているわけではありません。
「次はジャブか、それとも右ストレートか」
「今は攻めるべきか、一度距離を取るべきか」
「相手はフェイントなのか、本当に打ってくるのか」
このような判断を12ラウンドもの間、休みなく繰り返しています。
今回は、ボクシングにおける「脳のスタミナ」とは何か、そして練習や日常生活でどのように活かせるのかについてお話ししたいと思います。

高須賀 陽(たかすか あきら)
元英語講師・元プロボクサー(B級6回戦/14戦5勝8敗1分)
現役引退後に英語学習を開始し、かねてより興味があった海外での生活を開始、ニュージーランドのホテルの受付やラジオ局で勤務した。帰国後は、大学受験予備校での塾長やエリアマネージャー、ビジネスマン向け英語コーチングスクールでの英語講師など教育業界で5年間の経験を積む。
英語資格はTOEIC( L&R公開テスト) 930点、英検1級、IELTS (Academic )7.0を取得。
前職の英語コーチングスクール勤務時代には、勤務後に会員としてBOXING CLUB梅田に通いながらトレーニングを継続。その後転職し現在は教育業界とプロボクサー時代の経験を活かし、BOXING CLUBのトレーナーとして指導を行っている。
ボクシングと英語学習の両方を経験してきた立場から、「継続」と「成長」をテーマに情報を発信中。
脳のスタミナとは?
脳のスタミナとは、一言でいえば「考え続けるためのエネルギー」です。

心理学には「ウィルパワー(Will Power 意志の力)」や「決定疲れ(Decision Fatigue)」という考え方があります。
人は何かを判断するたびに、少しずつ脳のエネルギーを消費しています。

有名な話ですが、スティーブ・ジョブズが毎日のように同じ服を着ていたのも、
「何を着るか」という小さな判断に脳のエネルギーを使わず、重要なことに使うためだったと言われています。
ボクシングも同じです。
試合中は、
・ジャブを打つか
・ボディを狙うか
・前へ出るか下がるか
・相手のパンチに合わせてカウンターを狙うか
など、一瞬の判断を何百回も繰り返しています。
試合が終わる頃には体だけでなく脳も大きく疲れているのです。
だからこそ、脳のエネルギーを必要なところに使うことが大切です。
基本動作は「無意識」にできるレベルまで身につける

では、脳のスタミナを温存するにはどうすればよいのでしょうか。
答えは、基本動作を無意識にできるようにすることです。
例えば試合中に、
「ジャブを真っすぐ打とう」
「ガードを上げよう」
「顎を引こう」
「足幅を意識しよう」
と毎回考えていては、それだけで脳が疲れてしまいます。
だからこそ、日頃の練習では基本を何千回、何万回と繰り返します。
・ジャブを真っすぐ打つ
・打ち終わりにガードを戻す
・正しいスタンスを保つ
・腰を回してパンチを打つ
これらを無意識にできるようになれば、試合では基本動作に脳のスタミナを使わずに済みます。
脳のスタミナをもっと他のことに使えるようになります。

一方で、練習中はしっかり考えながら行うことが大切です。
「今日はジャブが流れていないか」
「打ち終わりのガードは下がっていないか」
「腰の回転は十分か」
と一つ一つ確認しながら反復することで、正しい動きが身体に染み込んでいきます。
意識して繰り返した動作が、やがて無意識でもできる技術へと変わるのです。
私自身、現役時代はシャドーボクシングを非常に大切にしていました。
派手な練習ではありませんが、基本を身体に染み込ませるには最も重要な練習だと考えていたからです。
世界チャンピオンの井上尚弥選手も、今なおシャドーボクシングなどの基本練習を大切にしています。
トップ選手ほど基礎を疎かにしないのです。
脳のスタミナは「駆け引き」に使う
基本動作が無意識にできるようになれば、脳のスタミナを本当に重要なことへ使えます。
例えば、
「相手はジャブの後に右ストレートを打つことが多い」
「打ち終わりにガードが少し下がる」
「ボディを嫌がっている」
「右に回る癖がある」
こうした情報を試合中に整理しながら、戦い方を組み立てていくことができます。

これこそが、試合で使うべき脳のスタミナです。
逆に、基本動作だけで脳が精一杯になってしまうと、相手を観察する余裕がなくなり、試合全体をコントロールすることが難しくなります。
また、駆け引きの中でも、
何度も経験しているパターンであれば、脳のスタミナをあまり使わずに対応できるようになります。
例えばマスボクシングやスパーリングで、
「ジャブを打った後に右ストレートを狙ってくる選手」
「左に回りながらジャブを突いてくる選手」
「フェイントからボディを打ってくる選手」
など、さまざまな攻撃パターンを経験しておくと、試合中に脳が
「あ、このパターンは知っている」
と素早く判断できるようになります。
一から考えて対応する必要がなくなるため、その分だけ脳のスタミナの消耗を抑えられるのです。
英会話や車の運転でも脳のスタミナの使い方が重要(おまけ)

個人的に前職の英語コーチの時も、生徒に同じこと(脳のスタミナに関して)を話していました。
実は英会話学習でも同じことが言えるんです。
英会話では、相手が話している間に
「次は何と返そうか」「どう表現すれば伝わるだろう」と考えながら聞くことが大切です。
もしそのときに、「この単語はどう発音するんだっけ」「舌はどこに置けばいいんだろう」と発音まで毎回意識していては、脳のスタミナが足りなくなってしまいます。
だからこそ、発音や基本的なフレーズは何度も練習し、無意識に口から出てくるレベルまで身につけることが大切です。
発音を無意識でできれば、その分の脳のスタミナを
「相手の話を理解すること」や「自分の伝えたい内容を考えること」
に使えるようになります。

これは車の運転にも似ています。
初心者の頃はハンドル操作やブレーキ、周囲の確認など、一つひとつを意識しながら運転するため脳はすぐに疲れます。
しかし、経験を積むと基本操作は無意識に行えるようになり、危険の予測や周囲の状況判断に集中できるようになります。
相手に脳のスタミナを使わせることも技術

面白いことに、脳のスタミナは自分だけでなく、相手にも使わせることができます。
例えば、
・肩を細かく動かす
・フェイントを多く入れる
・ジャブだけで終わらずボディも混ぜる
・攻撃のリズムを変える
・パンチの種類を増やす
こうした動きがあると、相手は常に考え続けなければなりません。
「次は何が来る?」
「今のはフェイントか?」
「ボディか顔か?」
このような判断を繰り返すことで、相手の脳のスタミナは徐々に削られていきます。
反対に、毎回同じタイミングで同じ攻撃しかしない選手は、相手にとって非常に戦いやすくなります。
考えなくても対応できるため、脳の負担が少ないのです。
もちろん体力は必要ですが、試合は体力だけで決まるものではありません。
相手に「考えさせて脳のスタミナを減らす」ことも、大切な技術の一つなのです。
試合で実力を発揮するために|脳のスタミナを温存する方法
貴重な脳のスタミナを試合当日に温存するにはどうすればよいのでしょうか。
私がおすすめしたいのは、次の4つです。
試合前はスマートフォンを見過ぎない

試合前、ついSNSやショート動画を見てしまう人もいるでしょう。
しかし、ショート動画のように次々と新しい情報が入ってくるコンテンツは、知らないうちに脳を疲れさせてしまいます。
試合前は、脳を興奮させるよりも、できるだけリラックスした状態を作ることが大切です。
好きな音楽を聴いたり、軽く瞑想をしたり、
何も考えずにぼーっと過ごしたりする時間を作ることで、試合に向けて脳のエネルギーを温存できます。
インターバルではセコンドの指示を素直に聞く

「岡目八目(おかめはちもく)」ということわざがあります。
囲碁や将棋では、勝負をしている本人よりも、外から見ている人のほうが冷静に状況を判断できるという意味です。
これはボクシングにも当てはまります。
試合中の選手はアドレナリンが出て視野が狭くなり、自分では状況を客観的に判断しにくくなっています。
一方で、セコンドは試合全体を冷静に見ています。
相手の癖や修正点が見えていることも多いので、インターバル中は自分一人であれこれ考えるより、セコンドの指示に集中しましょう。
余計な判断に脳のスタミナを使わず、本当に必要なことだけに集中できます。
試合ではあれこれ考え過ぎない

試合になると、
「もっと違う戦い方をした方がいいかな」
「新しいことを試してみようかな」
と考えてしまうことがあります。
しかし、試合で突然できることはほとんどありません。
リングの上で出せるのは、
これまで練習で繰り返してきたことだけです。
だからこそ、試合中は新しいことを考えるのではなく、自分が積み重ねてきた練習を信じることが大切です。
不安があるなら、試合前にこれまで書いてきた練習ノートを見返してみましょう。
「この課題は改善できた」「これだけ練習してきた」と確認することで、自信を持ってリングに上がることができます。
先手を取って試合の主導権を握る

ボクシングでは、先手を取って自分のペースで試合を進めることも、脳のスタミナを温存する重要なポイントです。
自分がペースを握っている時は、自分のリズムで攻撃や距離をコントロールできるため、余計な判断が少なくなります。
その結果、肉体的な疲労だけでなく、精神的な疲労も抑えやすくなります。
逆に、相手のペースに飲まれると、防御やカウンターを警戒し続けることになり、体力だけでなく脳のエネルギーも大きく消耗してしまいます。
だからこそ、試合では「相手の動きに反応する」のではなく、
「先手を取って自分から試合を動かす」意識が大切です。
練習の習慣化にも「脳のスタミナ」を節約できる仕組みを作ろう

実は、この「脳のスタミナ」に関する考え方は日常生活や練習の習慣化にも応用できます。
「今日はジムへ行こうかな」
「疲れているから休もうかな」
毎回このように考えていると、それだけでも脳のスタミナを消耗します。
そして、最終的には「今日は休もう」という楽な選択をしてしまいがちです。
人間の脳は、できるだけエネルギーを使わないように働く性質があるからです。
だから私は、練習を習慣化することをおすすめしています。
例えば、
・毎週月・水・金は仕事終わりにジムへ行く
・前日のうちにウェアやグローブを準備しておく
・仕事帰りにそのまま立ち寄れるジムを選ぶ
このようにきっかけや環境を整えておけば、「行くかどうか」を考える必要がありません。
脳のスタミナを「ジムに行くか行かないか?」という意思決定に使わず、
仕事や日常生活、ジムでの練習内容へ集中できるようになります。
まとめ
ボクシングでは、体のスタミナだけでなく「脳のスタミナ」も勝敗を左右します。
だからこそ、
こうした積み重ねが、試合でのパフォーマンスにつながります。
ボクシングは「体力の勝負」と思われがちですが、実際には「頭を使うスポーツ」でもあります。
基本を繰り返し、無意識に動ける技術、無意識に対応できるパターンを増やしていくことで、限られた脳のスタミナを本当に重要な場面で使えるようになります。
ぜひ普段の練習から、「体のスタミナ」だけでなく「脳のスタミナ」も意識して取り組んでみてください。








